液化天然ガス(LNG)は日本のエネルギーをどう支えてきたか:過去から未来への展望
はじめに:日本のエネルギーを支えるLNG
私たちの暮らしに欠かせない電気やガスは、さまざまな種類の燃料から作られています。その中でも、液化天然ガス(Liquefied Natural Gas)、通称LNGは、日本のエネルギー供給において非常に重要な役割を担ってきました。ニュースなどでLNGという言葉を耳にされる方も多いと思いますが、それが日本のエネルギー全体像の中でどのような位置を占め、どのように私たちの生活を支えてきたのか、過去の経緯から現在の課題、そして未来への展望までを分かりやすく解説いたします。
導入の歴史:オイルショックと環境対策を背景に
日本がLNGの輸入を本格的に開始したのは1969年のことですが、その重要性が高まったのは、1970年代に世界を襲った二度のオイルショックが大きなきっかけでした。石油に過度に依存していた日本のエネルギー供給は、価格高騰や供給途絶のリスクに直面し、安定的な供給源の多様化が喫緊の課題となりました。
この時、石油に代わる主要なエネルギー源として注目されたのが、天然ガスです。天然ガスをマイナス162度まで冷やすことで体積を約600分の1にまで縮小し、液体として輸送・貯蔵を可能にしたものがLNGです。日本は、遠く離れた産油国から安定的に天然ガスを輸入するため、このLNGという形で導入を進めました。
また、同じ頃、深刻化していた大気汚染問題への対応もLNG導入を後押ししました。天然ガスは、石炭や石油に比べて燃焼時の二酸化硫黄(SOx)や窒素酸化物(NOx)の発生量が非常に少なく、環境負荷の低いクリーンな燃料として、火力発電所や都市ガスの燃料として普及が進みました。
安定供給への貢献と電力の主力電源化
LNGは、日本のエネルギー安全保障の強化に大きく貢献してきました。特定の地域に偏在する石油と異なり、天然ガスの産出地域は比較的広範にわたるため、地政学的なリスクを分散しやすくなります。日本は世界中の様々な国からLNGを輸入することで、安定した調達網を築いてきました。
LNGを燃料とする火力発電所は、他の発電方式と比べて起動・停止が容易で、出力調整もしやすいという特性を持っています。この柔軟性は、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入が進む中で、天候に左右される発電量の変動を補う「調整力」としても非常に重宝されています。現在、LNG火力発電は日本の電力構成の約3分の1を占める主力電源となっており、私たちの日常の電力供給を安定的に支える基盤となっています。
現在の課題:国際情勢と脱炭素化の波
しかし、近年、LNGを取り巻く環境は大きく変化し、新たな課題に直面しています。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻は、世界のエネルギー市場に大きな混乱をもたらしました。ヨーロッパがロシアからの天然ガス供給を大幅に削減したことで、国際的なLNGの需給が逼迫し、価格が急騰しました。日本もその影響を受け、電気料金やガス料金の値上がりという形で、私たちの家計に直接的な影響が出ています。
また、地球温暖化対策として世界的に「脱炭素化」の動きが加速する中、二酸化炭素を排出するLNG火力発電をどう位置づけるかという課題も浮上しています。LNGは石炭に比べてCO2排出量が少ないものの、排出ゼロではありません。2050年カーボンニュートラル目標の達成に向けて、LNG火力発電の役割を段階的に見直していく必要があります。
未来への展望:移行期を支える燃料として
未来を見据えると、LNGの役割は変化していくと予想されます。当面の間は、再生可能エネルギーの主力化が進むまでの移行期間において、その安定供給を支える重要な電源としての役割を担い続けるでしょう。特に、気象条件に左右される再生可能エネルギーの弱点を補い、電力系統の安定性を保つための「調整力」としての価値は依然として高いと考えられます。
同時に、LNG自体も脱炭素化に向けた取り組みが進んでいます。例えば、燃焼時に発生するCO2を回収・貯留する技術(CCS)の開発や、将来的には天然ガスに代わって水素やアンモニアといったCO2を排出しない燃料の活用が進められる可能性もあります。日本は、これまでのLNG調達で培った国際的なネットワークや技術力を活かし、新たなクリーン燃料への移行を円滑に進めるための研究開発や国際協力に力を入れています。
まとめ
液化天然ガス(LNG)は、オイルショックを契機に導入されて以来、日本のエネルギー安全保障と環境対策の両面で極めて重要な役割を果たしてきました。特に、安定した電力供給の要として、私たちの社会活動を支え続けています。
現在の国際情勢や脱炭素化という大きな流れの中で、LNGは新たな課題に直面していますが、再生可能エネルギーへの移行期間において、その柔軟性と安定性は引き続き日本のエネルギー供給に欠かせない要素です。将来的にクリーンなエネルギーシステムへと進化していく過程で、LNGがどのような役割を果たし、日本がどのように対応していくのか、その動向は今後も注目されるでしょう。